原研哉,2003,『デザインのデザイン』岩波書店

読了.うーん.あまり新しい情報がなかったな.しかし個々の文章の中で使われる比喩がおもしろい.認知言語学ではメタファーは認知の基本として扱われているし(たとえば時間が前とか後とかっていうのは明らかに空間のメタファーだ),お笑いの,特にダウンタウンの面白さのひとつは変なたとえである.この本の中では「日本的なものとは?」という問いが歴史上「しゃっくりのように」繰り返される,というたとえが,言い得て妙!って感じで素晴らしかったり,他にも感心する比喩が多数.ただ,もっとも気になったのはデザインのユートピア性である.気をつけないと大変まずいことになりそうである.たとえば日本のメーカーが生産拠点をどんどん中国などに移して,色々なパーツを生産・物流のネットワークを通じて取り寄せることが出来ることになった状況が,メーカーが「製造」から自由になってさまざまな商品開発能力に特化していく様相として描写されているのに,驚いた.世界システム論においてはこれは先進国による発展途上国に対する搾取として描写される状況だからだ.どちらの描写の仕方が正しいとか,あるいはユートピアを構想することは悪いことだというのではなく,単純に「デザイン」に対する疑いがあまりに薄いのではないかという気がした.自分のやることを肯定する言説には気をつけなければいけない.どんなに正しそうに自分には思えても,そりゃ自分のやることだ,正しいことだと思いたい,と,気をつけたい.などという貧乏くささは,デザインには必要ないのだろうかもしかして.