新国立劇場『アンドレア・シェニエ』(作曲:ウンベルト・ジョルダーノ、演出・美術・照明:フィリップ・アルロー、テノール:カール・タナー、ソプラノ:ゲオルギーナ・ルカーチ、バリトン:セルゲイ・レイフェルクス、新国立劇場)

に行った。当日券狙いで開演三十分前に着いたのだが、安い席が意外なほど売れてしまっていて、結局かなり張り込むことになってしまった。全体的に演出が面白かったので、まぁそれなりに金額に見合ったよい席で観られたのはよかった。というわけで主に演出にばかり気を取られていて曲をよく覚えていないのだが、とにかくアリアが独立していないので、拍手を入れるタイミングがない。これは、拍手や掛け声(「ブラービ」とか)は観客の愚かしい卑小な自己実現である、と思っている人にはいいのではないか。アリアはなかなかいいものが揃っていたと思うし、オーケストレーションにもそこまで難を感じなかったので、まぁ全体的にいい曲だったのではなかろうか。よく覚えてないけど。主役のテノール、ソプラノ、バリトンはいずれもなかなかだったが、特にバリトンの人は老けて見える割に全体の中で一番よかった。しかしこの公演でやはり特筆すべきは演出だろう。様々な位相で「ずらし」の実践が行われていて、特に垂直なスクリーンで正しく像を結ぶ映像が、斜めの舞台装置に映されたときはなかなか感心した。全体的に演出が前面に出ていて、場所によっては多少うるさいところもあったが、群集の処理や感情の表現など基本的なところはしっかりおさえてあるのですごい。でもオーケストラピットに入る者として、効果音の挿入にはやはり違和感を禁じえなかった。曲が終わっていたらともかく、オケが鳴ってる最中に音を入れるのはやはりちょっといやだ。