『花形・名作舞踊鑑賞会 夜の部』(国立劇場小劇場)

を観に行った.最初は長唄「近江のお兼」.最近こんなことばっかり言ってる気がするが,歌舞伎の見方が分かった気がする.今まで歌舞伎を観たのは歌舞伎座や新橋演芸場の後ろの上の方の席ばかりで,なんだか遠かったのだろう.国立劇場の小劇場は,小ぶりでよい.次は清元「文屋」.これを舞う花柳基先生めあてで行ったのだが,とにかく素晴らしい.舞の様子はマイム寄りのものが多く,つまり,ある基本的な型の組み合わせというわけではない.そのひとつひとつの手の運び,足の運びは,完全に計算され尽くされ,予定通りに動かされているようにしか思えない.官女に足を引っ張られてすっころぶところなどで,どうしてあのように完全にからだをコントロールしながら美しく転ぶことが出来るのか.もうえらいことになっている.花柳基先生は,必見です.最後は長唄「棒しばり」.狂言で「棒縛」を観たのはいつのことだかもはや思い出せないが,今回のものは狂言よりもずっと祝祭性が開放的で,外向的であった.つまるところ日本の伝統芸能については陰や陽という言葉は(普段はうさんくさくて使う気がしないものの)本当にしっくり来るのである.と,ここまで書いて思ったが,もはやあれは既に祝祭ではないのかも知れず,単に芸能であったのかも知れない.民衆,大衆の領分に完全に取り込まれた果てのものであったように思われるのだった.