読了。学術書ではない一般書ももちろん読まなくてはならない(まあこの二者の区別は大変曖昧だけれども)。しかし一般書はさらっと読むべきである。はずなのだが、わりとしっかり読んでしまったのは、内容がめちゃくちゃ面白おそろしいものだったからである。性的な欲望に代表される諸リビドーの諸抑圧の結果、そのフラストレーションがある閾値を超えると神経症などのかたちで噴出する、というフロイトモデルを、そのまま認知症にあてはめるとどうなるか。人生の全ての段階で抑圧してきたさまざまな感情ややり残した課題、思い残しなどが、認知症などによって心の堤防が崩れやすくなったところを狙ってあふれ出すのである。何ておそろしい!そのような事例が数多く掲載されており、またそれに対するケアの仕方として、「そうですね、あなたはとても悔しかったのですね」など相手の言ったことをそのまま繰り返すという手法などが紹介されていて、覚えず時間をかけて読んでしまったのである。こんなおそろしい話があるだろうか。人生の晩年において、自己の崩壊を感じ、自尊心がぼろぼろになりながら、ひとりで死にたくないと恐れるそのときに、過去、である。物凄い物語だ。フロイトはやはり物語であり、そこがうっとりするところであり駄目なところでもある。