『12月文楽公演』(国立劇場小劇場)

に行った。演目は義経千本桜の中から堀川御所の段、伏見稲荷の段、渡海屋・大物浦の段。見所満載で、『フィクションの美学』で言われているような、残酷凄惨、酸鼻をきわめる、と言うと言い過ぎだけれど、とにかくそういう見せ場が目白押しで、とにかくエキサイティングだ。よく言う「どろどろどろどろ」という効果音(太鼓のロールである)とともに狐が化けて出たりとか(多分。もしかしたら全然違うストーリーかもしれない)、馬が出てきたりとか、とにかく見世物としてサービス精神にあふれていた。何より素晴らしかったのはラストで、知盛が安徳帝義経に預け、自分は海に身を投げるというときに、舞台は一面が海、中央にある大岩に上った知盛が自分のからだに大きな錨を結わえ付けて、舞台奥に向けてその錨を放り投げ(ここの奥行きのあり方というか平面の重ね方というか平面構成がまた素晴らしい)、哀れ忠臣知盛は海の藻屑と消えにけり、というシーンが、知盛が錨の重さで海に引きずりこまれるのがスローモーションみたいになっていて、でも昔からスローモーションという概念があったかどうかは怪しいので本当かどうかは分からないが、姿勢が徐々にうしろにつんのめっていき、完全にからだの上下が逆転して最後は足だけ、あー足も沈んで行くよ、というところで三味線がじゃかじゃかじゃかとかき鳴らされ、圧巻!圧巻と秀逸という言葉は何だかおたくの匂いがするのであまり使いたくないが、圧巻だった。