遊園地再生事業団プロデュース『モーターサイクル・ドン・キホーテ』(作・演出:宮沢章夫、横浜赤レンガ倉庫1号館3Fホール)

を観に行った。演劇の演出的小道具として(リアルを演出する手段として)最近よく見かけるのは(昔からあるのかもしれないが)食事をするということであって、そこで飯を食っているということは否定しようのないどうしようもない本当のことであって、効果は抜群である。それが今回は会場に入るとまずバイクがずらずらと鎮座していて、あとはコーヒーメーカーでコーヒーが今まさに淹れられつつある。コーヒーの香りがする。後に劇中でエンジンをかけて走り出すことが予想される本物のバイクの存在感と、コーヒーのにおい。効果は抜群である。食事のオルタナティブとして大成功であるばかりでなく、さらに第二第三のオルタナティブを試行するための指針としても大変有効であり、そのあたりはいかにも宮沢章夫らしいと言っていいのではないだろうか。仮チラシの段階で『カルデーニオ』というタイトル(シェークスピアの失われた戯曲と同題)がついていた作品であるが、結局ドン・キホーテになった。どちらも作品中で重要な役割を果たすが(という言い方では不足だが)、やはり『カルデーニオ』自体は劇構造のなかで必然性を持っていないからであろう。さて、役者陣はきわめて安定感があり素晴らしい。みんなうまい。そういう意味で、演劇特有の快楽がしっかり役者の魅力によって担保されているようなところはあった。その一方でストーリー自体にさして面白みがあるとも思えず、特にラストシーンの肩透かしの喰わせ方にはどうしても「何か」を読みたくなってしまうが、結局いったいなにがどういうことだったのか分からない。うーむ。終わりなき日常を生きろみたいなことを感じさせるラストが、まさかそれを言いたいわけではあるまい。うーむ。劇中劇と劇の参照関係もよくよく考えてみると何かあるのではと思わせるゆらぎが含まれていて、うーむ。