三島由紀夫,1960,『美徳のよろめき』新潮社.

読了.途中で人生の達人みたいな老人が男女一名ずつ登場して,にわかにまるでおとぎ話のようになってしまい,びっくりさせられてしまう.とはいえ最後には主人公が自ら書いたおとぎ話のような手紙を破り捨てることで,おとぎ話のように人生を生きることが相対化されるという話であったことが明快に分かる,親切な幕切れである.それにしても,どうしたって世の中には自我に目覚めている人とそうでない人,ものを考えている人とそうでない人がいるのであって,その「考える」ということを人間がまさに始めるその過程を描くというのはチャレンジングだ.だが果たしてそれを描くことに成功しているかどうかはよく分からない.