松尾スズキ,2001,『マシーン日記 悪霊』白水社.

読了.『マシーン日記』と『悪霊』のふたつの戯曲が入っている.『悪霊』は一読してなかなかよく出来てるし,効果としても面白いなあと感じたのだが,『マシーン日記』はよく分からなかった.トラウマ話は苦手だ.何だその安直な動機付けは!と思ってしまう.もちろん,トラウマによって完全に動機づけられるストーリーなんてものは少ないが,しかし寄りかかることは往々にしてある.あるいは親や出自の話というのも同様であって,何かと親のせいにしてはいけない.過ぎたるは及ばざるがごとし,親のせいにしなさすぎるのはしすぎるのと同様によくないだろうけれど,とにかく,どちらの作品にしろ,幼少期の記憶とかそういう変な説明が鼻についた.あとは,ラストの「どや!」感が,やっぱりちょっと鼻につく.あるいは,戯曲としてではなく,文章としてしか読めていないという,読者たる自分の欠陥かも知れない.しかし,人物の描き方は,ものすごくうまい.セリフの細部やト書きによって,「あ,この,女は,凄く,エロいぞ」と分かる.その情報の提示の仕方における技術はすごい.まあいつだって,現実に人間のエロさの提示などというものは,現実というには似つかわしくないほど細心の注意をもってかつ過剰になされるものだから,これは,リアル.それにしても現実はもう少しエロに近づいてもよさそうなものだ.