『5月文楽公演』(国立劇場小劇場)

第1部に行った.「鎌倉三代記」と「増補大江山」.世の中は愚かしく,つまらない言い訳とためらいに充ち満ちていて,お前らみんな最悪だ,とそれらを切り捨てるまさにその返す刀でもってして,愚かしかろうが小賢しかろうが,それでも君たちは凄い!この僕の欲望をかき立てる君たちは,グレートだ.と(現代にいるこの私が)思っているときなどは,文楽は最高だ.西洋近代的な意味でのヒューマニズムから逸脱するとしても,そんなことは関係ない.むしろこれがヒューマニズムだ.と思わずにはいられない,普遍的で個人的な情動の数々!(「普遍」も「個人」もまた西洋近代的な概念なのではあるが)「お前ら」は最悪で最高で,陳腐で独創的で,僕や私の孤独の原因でありまたその癒し手でもあるのである.それだけのものを託された人形は,舞台上でどこか誇らしげなのである.人形たちはもはや,「お前ら」という複数形の存在ではなく,どんな人間よりもすぐれて「お前」という単数形の存在なのである.翻って,決して人形ではない存在としての人間もまた祝福されるだろう.