『文楽二月公演〈第三部〉』(国立劇場小劇場)

に行った.義経千本桜の「伏見稲荷の段」「道行初音旅」「河連法眼館の段」.桜満開,春の吉野を狐と歌い踊りながら目指す,という,もう,ケレンだ,ケレン以外の何ものでもないのに,本当に素晴らしい.春を先取りした.最後のカタルシスとかも異常なくらいで,何なんだこれはやりすぎではないか.狐が出てくる人形劇というのは,人形劇になってしまいそうなものを,そこはなかなかどうして文楽というのはそうはならないのであって,とは言え狐はかわいい.ただ,そのかわいさというのが,大変よいかわいさなのである.日本古典のかわいさというのは,いったい何だろうと思わせるバランス感覚があり,まったくもって素晴らしいので,「かわいい」以外に何か違う言い方はないかと別の表現を探しこそすれ,しかしそれはやはり「かわいい」以外の何ものでもないのである.