劇団地上3mm『トカトントン――唄を忘れた純友は――』(原作:鶴屋南北『金幣猿島郡』,脚本・演出:川口典成,下北沢楽園)

を観に行った.何と言っても出演していた森澤友一朗が素晴らしかった.大変に魅力的だった.役者がレーシングカーであるとすると,レーシングカーは何と言っても走らなければその真の魅力が発揮されないが,走るコースによって,その発揮が十全に達成されるかどうかが左右されるとして,そのコースを脚本であり演出であるとすれば,今回は大変に,車が魅力的に走れる良いコースであったのだろう.昨今もてはやされる演劇は,どちらかと言えばコースの造形美というか構造がメインであって,そこを走る車はお飾りというか,コースを成立させるための存在に成り下がっている感があり,この作品はその点において好対照である.そしてこの作品のあり方こそがヒューマニスティックであるとも思われて好ましい.しかし,役者は実際はレーシングカーでも何でもなく,コースを走るのではなくて演劇をやるのであるから,その魅力が演劇的感興にどう接続するかが問題なのだろう.その点,お清のくだりは大変に泣ける感じになっていて,そこがうまく行っていたということになる.全ての情動と意識を言葉で考えるよりも,ある種の言葉を実際に人間に言わせてみた方が早いという,その言葉こそが戯曲であればいいのだろう.