オリヴィエ・ダアン監督,2007,『エディット・ピアフ〜愛の讃歌』(出演:マリオン・コティヤール/シルヴィ・テステュー/ジェラール・ドパルデューほか,フランス・チェコ・イギリス,カラー)

を観に行った.映画を映画館で観るのは楽しくて仕方がないのは本編の前の予告編の前の変なCMの前の変にワクワクする雰囲気から始まって本編に至るまでのすべてが楽しくて仕方がない.映画としては構成とかぐだぐだなところがなきにしもあらずだったのだが,何かよく分からないが泣ける映画であった.映画のなかで恋愛についてはほとんど何も説明されない.こうこうこういうわけで恋に落ちたりなんだりする,という説明がされず,この点は振り返ってみると大変よい.この映画は端的に言って,恋人たちの何らかの特長,たとえば美貌であったり優しさであったり気になるあれこれであったりという,手垢にまみれて腐臭を発するお決まりのベルトコンベアーを通過しない.むろんそれはこの映画が,ピアフの絶望とその果てのかすかな希望を描く,その絶望のために恋愛を持ってくるだけだから恋愛は説明しないのだと,もちろん言えるわけだが,それにしたって,ピアフの恋の相手がピアフの歌を引き合いに出して口説いたり愛を語ったりしてもよさそうなものなのに,それすらないのである.で,それはよいなと思った.恋人が女房持ちである点も好きだし,あとはこの恋人たちがひたすらずっと一緒にいるだけ,とかいう感じだとなおいっそう素晴らしいのだが,そうはいかず,むしろまったく一緒にいないで,思いを募らせるばかりであり,この点は形而上的で好きではない.特に根拠なく関心を持って一緒にいて,それが恋愛であれよかし.とか長々と書いたが,映画としてはそこまでたいした映画であるわけではなく,むしろ映画をダシにして恋愛について書きたかっただけだ.