『第八十二回 粟谷能の会 粟谷菊生一周忌追善』(国立能楽堂)

に行った.特筆すべきは見物左衛門(野村萬)と石橋(粟谷能夫)だろう.見物左衛門はひとりで演じる狂言で,芸能としての素晴らしさに胸を打たれた.凄い.しかしこの日は体調が思わしくなかったので全体的に情動も低調であった.石橋は,最後に獅子が出てくるところがすさまじいのである.その手前から既に囃子方が定型から外れまくった囃子(特にかけ声が圧巻.まさに大音声.である)で盛り上げておいて,いざ獅子が橋がかりを出てくるときの盛り上がり方は,言うなれば白鳥の湖のフィナーレで金管の下降音型を伴った主旋律をバックに王子と黒鳥が戦うところや,あるいはゴッドファーザー(第一作だ)の最後でマイケルが他のドンたちを一斉に暗殺させるシーンなどの盛り上がりに等しい.これを凌駕する盛り上がりと言えばもう他にはスター・ウォーズシリーズの各作品,本編が終わるところでBGMがそのままエンドロールの音楽につながっていく,あの圧倒的なカタルシスをおいて他にはないだろう.つまり,良い演目を観た.能って色々あるんですね.