『三文オペラ』(作:ベルトルト・ブレヒト,音楽:クルト・ヴァイル,演出:白井晃,出演:吉田栄作/篠原ともえ/ROLLYほか,世田谷パブリックシアター)

を観に行った.別に嫌な気持ちになるほどつまらなくもなかったのだが,特に面白くもなくて,プラスマイナスゼロな舞台だった.篠原ともえが想像をはるかに超えるかわいさと歌の上手さ,そして演技の危なっかしさを備えていたが,別にそれがどうということもない.むしろ気になったのは,ブレヒトなのに普通に没入できちゃうよ,ということであった.むろんテロップなどで異化されるところはあって,だから,「普通に没入できちゃう」のは演出の側の問題と言うよりはむしろ観客の側が変質していると言うことにあると思われる.テロップによる異化は没入を回避するためには機能せず,むしろ安心して没入できるための,ガチではない「ネタ」の回路に誘導するための担保として機能しているということだ.そういうワンクッションを置かなくては没入できなくなってしまった観客にとって,たった一段階の異化は異化ではなくて没入保証装置になるのである.