佐野洋子,1995,『わたしが妹だったとき/こども』ベネッセコーポレーション

読了.佐野洋子は大好きだったが,もっと好きになりました.こう何というか,「実は残酷なこども」みたいなレトリックってあると思うんですが,そのレトリックが持つ暴露趣味的な性格って本当に下らなくて,そこに「本当のこどものことを分かっているわたし」みたいな自意識が覗くとそれはもう勘弁して欲しい感じなわけです.佐野洋子のこのエッセイというか半自伝童話みたいな作品も,結果として非常に実は残酷というか醜いというか,ある「リアルな」こどもを描くことに成功しているのですが,しかしそこには「こんなに分かってるぜ,どうだ!」という感じが微塵もないばかりか,リアリズムへの志向もまったく感じられず,何よりこどもからおとなにまで受け継がれる醜い心の動きが,やや救われるような気がするところが実に素晴らしいのであります.佐野洋子のこのどこにも逃げないところが,非常に実存主義的で,極めて巧妙かつ隠微な逃げを打つ酒井駒子なんかよりずっと素敵であると主張したくなるところです.