文楽五月公演『絵本太功記』(国立劇場小劇場)

を観に行った.第一部.大変素晴らしい.しのぶと蘭丸のくだりなどは特に泣ける.そして,光秀にも,母がいるのである.そういえば,あのひとにもこのひとにも母がいるのであり,挙げ句の果てには母は子のことを思っていたりいなかったりするわけで,これは,また偉大なる,過剰な事実,であって,このような過剰さの一端を引き受けて余すところなく表現して(いやな言葉だが)しまった文楽の力にはただただ感嘆するほかない.怒りに駆られ爆発し一路破滅へと向かう悪逆の謀反人にも,母がおり,しかもそれは「誰にだって最後は母親がついている」という類のものなどではなく,母は逆臣である子を捨てるのである.そうして光秀は自身の子と忠臣に諫められて,自死も許されない!(当然!)このとき,光秀の子は恋をしているのである.彼らもまた死すべき存在であり,明日くたばるかも知れない,って感じだ.そして会いたい人に会うこともないのである.