渚ようこ『あなたにあげる歌謡曲』(ギター:高橋ピエール,DJ:コモエスタ八重樫,青い部屋)

に行った.ライブ.戸川昌子も三曲歌って凄くラッキーな感じだ.渚ようこの『あなたにあげる歌謡曲』というアルバムがあって,そのアルバムは渚ようこの歌と高橋ピエールのギターだけなので,このライブはそのアルバムが好きな人にとってはたまらない企画である.それにしても文系っぽいというか文学部っぽい,文化的な均質性のきわめて高そうな観客に若干違和感を抱いたりもしたものの,素晴らしいライブだった.ただ,自分が日頃素晴らしいと言ったり思ったりしていることというのは,「うひょー!!」という躁っぽいものか,または涙が止まらなくなるようなもののどちらかであるのに対して,渚ようこの歌は違ったのだった.そういう躁鬱的な没入はしなかった.もちろん「うひょー!!」の方には知的な活動(分析的な受容によってその精緻な構造に驚嘆するとか)も多かれ少なかれ含まれているのだが,そうは言っても知的とか何とか言って結局欲情して興奮してその興奮に没入していることには変わりない.何かと言えば没入したがることはほとんど悪いことではないが,しかし今回はしなかったのだった.というか,没入させてくれない感じで,挙げ句の果てにその「没入からの疎外感」に没入することすらも許されない感じがあって,というのは言い過ぎかも知れないけれど,でもまぁそんな感じだったのだ.思い出していたのは,ダムタイプ古橋悌二が,「美しいゲイのストリップダンサーがHIVポジティブであることを,ストリップをする舞台上でカミングアウトするというパフォーマンス」に泣いたという話だ.それは何に泣いたかというと,エロスを感じることすら許されなくなったことに,というのである.それは,「没入からの疎外感」への没入ではないか.と,ぼんやりと,「没入からの疎外感」への没入からの疎外感の中で考えていたのだった.