五反田団『いやむしろわすれて草』(作・演出:前田司郎,出演:志賀廣太郎・端田新菜ほか,こまばアゴラ劇場)

を観に行った.サイコー!現在もっとも観るべき劇団としては,チェルフィッチュポツドールとそして五反田団の名前を挙げるべきだろう.ただし,チェルフィッチュポツドールにおいて,脚本と演出のレベルで岡田利規三浦大輔それぞれの手つきがきわめて前景化して見えるのに対し,今回の五反田団は前田司郎の影がほとんど見えない.前作まではあたかも夢のような,語義にもっとも忠実な意味でシュールレアリスティックな感じが非常にユニークな持ち味であった五反田団が,今回はその手癖を軽々と突破して,そういったギミックではなくて,舞台上の役者,身体と言語で正面から勝負していた.役者ひとりひとりが本当に魅力的で,特に主役の端田新菜が非常に魅力的に見えてくることといったらない.そして幕切れ!もう,だから,演出が大変素晴らしく,キャスティングが素晴らしく,そして,これはアテ書きかも知れないわけだが,アテ書きであったらあったでそれはもうものすごいアテ書きで,というのも,役者のことを本当によく分かっていなければ書けないくらいのものだったからだ.で,おそらく今回の作品の秘密はやはり今まで五反田団の持ち味であった夢のような感じと密接に結びついていると思うのである.その秘密とは端的に言って現在と幼少期を往還するということなのだが,この往還をあのように十全なかたちで素晴らしく効果的に行えるとなると,これはもう演劇というメディアにとっての一大事件であると言ってよい.小説においては登場人物の出自から物語るということは往々にして行われる(あとは『ジョジョ』でも)が,これが演劇でも可能になったとなればこれは一大事だ.それは演劇というメディアに乗せることの出来るものの可能性を一挙に広げるからだ.しかし,それを可能にするドラマツルギーを持っているのは,唯一,夢のような感じを実現できる前田司郎ひとりであるのかも知れず,なんと言っても素晴らしいよ,『いやむしろわすれて草』.と思ったら,再演か,再々演くらいみたいだ.とにかく,絶対観るべき.必見.