アルノー・デプレシャン監督,1996,『そして僕は恋をする』(出演:マチュー・アマルリック,エマニュエル・ドゥヴォスほか,フランス,カラー)

を観た.VHSで.身も蓋もない映画だった.あられもない.大胆不敵.音楽(選曲とタイミング),カメラワーク(特にズーム),カットバックなど,すべて身も蓋もない.で,ストーリーや個々のセリフがまた,身も蓋もないのである.その身も蓋もなさというのは,つまり,人間の心理やあるいは人間性とかに対する暴露的な態度であるような気がして,そのような暴露的な感じというのは得てしてどきどきするものである.暴露(ちなみにこの「暴露」という言葉の使い方はいわゆる「バクロ本」とかとは違って,暴き立て露わにするという事柄の,比較的ニュートラルなニュアンスである)によってどきっとさせる感じというのをデプレシャンはおそらくすごく自覚的にやっていて,それがいやらしく感じられなくもない.思い出されるのは,かつて自分が,「自分のことが一番嫌い」と言っていた知人に対して「まぁともかく自分が一番なんですね」と言ったという出来事で,こんなことを今でも思い出せるのはやはり自分の発言が暴露的で,相手だけでなく自分もびっくりしたからだろう.自分がこれと同じことをいろんな人に何度も言っていたら,やはりそれはいやらしいだろうと思うのだ.そういう目新しいレトリックにいちいち喜ぶのは,ちょっときついことを言って「毒舌」とか呼ばれて喜ぶのと同じくらいに本当にどうしようもない救いがたい痴愚蒙昧な振る舞いではないか,と思われなくもない.まぁでも,この映画は,嫌いではない.かといってそんなに好きでもないかも知れないのは,今まさに自分の中で広義のリアリズムが失効しつつあるからかも知れない.まぁ一時的な気分の問題かも知れないけど.