パラドックス定数『38℃』(作・演出:野木萌葱、渋谷space EDGE)

を観に行った。全然気にも留めていなかった劇団だったが、大変よかった。青年団かと聞き紛うばかりの「現代口語」で始まったのでまったくテンションが上がらないままスタートして、中盤くらいにさしかかっても「こんなことしてて恥ずかしくないのかしらん」と思ったりもしたのだが、結果的にはオーソドックスとも言える会話劇の持つ渋い魅力に心動かされた。いや、実は心は動かされてないかもしれないけど、とにかく、なんだか好きになった。ポツドールに始まってクナウカチェルフィッチュなど、ギミックとでも呼ぶべき特殊なドラマツルギーを持った劇団ばかり好んで観る身としては、直球ど真ん中な感じの作品はともすればこそばゆい感じに陥りがち、いまさらこんなもの別に観たくないよという感じに陥りがちだと思うのだが、そうはならなかった。役者は良いし、今思い返してみると照明で気を散らす効果は大きかった(大変素晴らしかった)気がする。物語としては七人目の登場が肝で、あれで全体が大変安定した。うまい。また、多くの演劇が脚本や演出の中に説明不可能なもの、ロゴスの射程外のもの、を「敢えて」盛り込んでいる(何が敢えてだ、ふざけるな、と思うこともしばしばある)中、この作品ではそれがないに等しい。その見通しのよさ、潔さ、みたいな点も大変評価できる(もちろん、わけのわからない要素を盛り込むこと自体は悪いことではないが)。しかし何よりも大きな特長は、絵が完成されているところだ。画。三方から舞台を囲む客席配置だったせいもあるだろうが、登場人物の布置に気が配られていて、美しくびしっと構図が決まる。そしてまったくいやらしくない。これは大した才能だ。物語があって役者がいてストレートに演技して、それでいいのだと思わせる力があった。