『MATCH』(振付・演出・テクスト・映像コンセプト:ヤン・プッシュ、世田谷パブリックシアター)

を観た。面白かった!チラシの「恋もダンスもファイトで行こう。冷めた二人に火をつけろ!」(「火」だけ赤色)というとほほなコピーもなんだかそういうものとして受け入れられそうな気分になる感じであった。映像を駆使したダンス作品を作るドイツの若手、ということで、あまり期待していなかったのだが、ポストトーク矢内原美邦と決まった辺りから徐々に期待が膨らみ、そして期待を上回るよさであった。まぁドイツということで、Morr Music(ドイツのエレクトロニカというか何というか、系のレーベル)的な、クリック音と重低音を多用した音楽も素晴らしく、映像もなかなか面白かった。取り立てて新しいことをやっているわけではないが、一つ一つのクオリティやその組み合わせ方がなんとも「考えられてる」感じで、評価できる。ひたすら男女二人で踊り続けるのだが(まぁ踊ったり喋ったり)、女性が"I want you to ..."というかたちでひたすら「〜してほしい」を羅列し(例えば「私がばかっぽいこと言っても引かないでほしい」「嫉妬はしないでほしい」「少しは嫉妬してほしい」「テーブルマナーもきちんとしてほしい」「いつもやさしくしてほしい」「私の友達を好きになってほしい」「いつもいいにおいでいてほしい」「私の大好きな映画を好きになってほしい」「私の好きなキスをしてほしい」「何を言ったら私が笑うか知っていてほしい」「同じ静寂を共有してほしい」などなど)、それで既に泣けるのだが、続くシークエンスでは女性が"shoulder"とか"hip"とか言うのに合わせて男性がそのからだの部分を支えてあげるという踊りがあって、もうこれは本当に素晴らしい。そう、テーマは「男と女」なのであった。あー、それにしても文字通り「マルチメディア」な作品だったので凄く書き足りない気がする。さて、先日観たイスラエルのダンス『ストロベリークリームと火薬』のポストトークがひどかったのに比べて、こちらのトークは素晴らしかった。矢内原美邦は相変わらず支離滅裂というかチェルフィッチュ的な話しぶりであったが、いかに二次元の映像と三次元のダンスを遊離させないようにするか、というような話とか、「ニブロール矢内原美邦」を呼んだパブリックシアターの功績は大きい(司会の先生も素晴らしい司会ぶりであった)。質問タイムでドイツ語で質問した勇気ある人(ドイツ語を勉強しているのだろう)が「ピナ・バウシュからどんな影響を受けましたか」とかいう内容の質問をして、「あちゃー」と思ったものの、ヤン・プッシュがいい奴で、「最初『カフェ・ミュラー』のドキュメントをみてひどい作品だと思ったけど、その後『春の祭典』をみて、そのときは面白かった」と答えていて、結果的にいい質問だった。