ゴールズワージー 1956『林檎の木』(三浦新市訳)角川文庫

読了。あらすじを解説から抜粋。

 昼はかっこうが呼び招き、夜はふくろうが鳴くというデヴォンの荒野にくりひろげられる青春の恋物語――月のこうこうと冴え渡る夜、花咲き匂う林檎の木蔭に抱き合って、口づけした青年アシャーストと清純可憐な田舎娘メガン。彼は彼女をロンドンに連れて帰ろうと約束して、近くのトーキィの町にメガンの晴着を買いに出かけると、偶然友だちに出会う。友だちのところに招かれて、その友の妹たちと仲良くなり、ずるずる居坐ってしまう。ふとしたことで、一番上の妹、ステラに心をひかれるようになる。ある日のこと、彼を待ちわびていたメガンが町へ出てきて、道行く人の顔を見ながら歩いて行く哀れな姿が、アシャーストの眼に映る。彼は二人の女に思い悩みながらも、メガンとの初恋を葬ってしまう。これは、彼の胸のうちにあった階級意識にほかならなかった。メガンに対する恋心は、春の一時の気まぐれと知った彼は間もなく同じ階級の、教養のある、美しいステラと結婚する。それから、二十五年の歳月が流れ、二人の銀婚式の日、はからずも彼の眼にとまったものは、二十五年前彼に見棄てられて、林檎の木蔭の小川に入水自殺した哀れなメガンの墓だった。

実際には小説は銀婚式の旅行のシーンから始まり、すでにステラの名も明らかにされているため、メガンとの恋がどのような終末を迎えるのかというのが読者の関心事項となりながら小説は進行する。その「春の一時の気まぐれ」の恋や、それがさっと醒めていく様子などは、何とも自分の実感にフィットするところが多くていささか驚いた。町で見かけたメガンを追いかけて行くが声をかけられず海に行って一人で泳ぎ何だかさっぱりしてしまうところなど、何か凄く微妙なリアリティを掴み取れているような気もする。ノーベル賞作家ゴールズワージー1916年の作品。